四方宏明の“音楽世界旅行” [共産テクノ部]

四方宏明の“音楽世界旅行” [共産テクノ部]

SOVIETECHNO:『共産テクノ ソ連編 (共産趣味インターナショナル) 』の発売を記念して、共産テクノの動画を中心に紹介!

坂本龍一

11月 21日

『Utada The Best』にも入っている宇多田ヒカルの「戦メリ」

前回に続き、しつこく「戦場のメリークリスマス(Merry Christmas Mr. Lawrence)」でしす。この曲については、All Aboutテクノポップにて「戦場のメリークリスマス」記事で「何故、この曲のカヴァーが多いのか?」という分析を行い、43曲のカヴァーを紹介しました。それ以降も「戦メリ」カヴァーは増殖中で、取りこぼしていたものも含めて紹介したいと思います。

教授自身も、オリジナル以外にも『Media Bahn Live』(1986年)、『Playing The Orchestra』(1988年)、『Coda』(1993年)、『1996』(1996年)、『/04』(2004年)、『Playing the Piano 2009 Japan』(2009年)等でセルフカヴァーをしています。iTune Storeでは、さらに複数の場所で録音されたライヴ曲を配信しています。全部そろえてどうする(?)とは思いますが・・・ 基本、ピアノversionです。でも、僕はワイングラス効果なのか、オリジナルに一番、愛着を感じます。

ごく最近もcommmonsからリリースされた『Christmas Songs』(2010年)にもリミックス「Merry Christmas Mr. Lawrence -re-modeled by Goro Ito-」が収録されています。

Christmas SongsChristmas Songs
アーティスト:オムニバス
販売元:commmons
(2010-11-17)
販売元:Amazon.co.jp
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先ずは、最近話題の宇多田ヒカルちゃん。UniversalからリリースされたUtada名義の方のアルバム『This Is The One』(2009年)に収録の「Merry Christmas Mr. Lawrence - FYI」。宇多田ヒカルって、a-haの「Take On Me」もそうですが、80年代カヴァーが結構好きみたいです。歌詞がないと宇多田ヒカルは歌えません。David Sylvianが歌った「Forbidden Colours」(曲は「戦メリ」)ではなく、新たに英語詞が作られ、バイオリン音が目立つカヴァーです。 ちなみにこの曲は、宇多田本人が自ら不買をほのめかすツイートをしたユニバーサルからの『Utada The Best』(2010年)にもちゃんと収録されています。

Utada The BestUtada The Best
アーティスト:UTADA
販売元:ユニバーサル インターナショナル
(2010-11-24)
販売元:Amazon.co.jp
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他、いくつか紹介します。
■ブラジルの女性ドラマー、Vera Figueiredoのアルバム『Vera Figueiredo』(1999年)に収録。
■Watergateの「Heart Of Asia」(2000年)。トランス系カヴァーは正直言って、きついのもありますが、これは聴けます。PVは「間違った日本」的センスに溢れています。
■R&B系のAlのちょっとスローな日本語歌詞付き「Merry Christmas Mr. Lawrence」(2003年)。
■メロディックハードコア系のFACTのアルバム『FACT』(2009年)に収録。
■クラシック・ヴァイオリニストの宮本笑里とヴォーカリストのJadeからなる日米合体ユニット、Saint Voxの「Merry Christmas Mr. Lawrence - Rocket Girl」(2009年)。ちなみに中田ヤスタカが、JadeのSweetbox名義での「Everything Is Gonna Be Alright」をリミックスしています。
■Aira Mitsukiの『Airaの科学』(2009年)に収録の「戦場のメリークリスマス」。歌詞はフレンチ。
11月 20日

「戦メリ」のワイングラス・サンプリング分析

クリスマスソング特集の第2弾は、教授の「戦場のメリークリスマス(Merry Christmas, Mr. Lawrence)」(1983年)。こちらもクリスマスソングの定番と呼べるでしょう。実際、インスト曲でタイトル以外に特にクリスマスと言っているわけではありませんが、この曲がかかると何故かクリスマス気分になります。同時に、ビートたけし扮するハラ軍曹が登場する映画のエンディングを思い出します。

戦場のメリー・クリスマス戦場のメリー・クリスマス
アーティスト:坂本龍一
販売元:ミディ
(1993-09-21)
販売元:Amazon.co.jp
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当時は知らなかったのですが、『UC YMO』のライナーノーツの「邂逅」の曲解説の中に以下のYMOメンバーの発言があります。

この頃、E-mu(イミュレーター)ってサンプラーが大活躍っす。『戦メリ』でも活躍のワイングラスのサンプルも随所に。


「どこにワイングラスのサンプルが使われているか?」が気になり、けろっぐ博士と古くからのテクノポップ仲間の一人なおみさん(男です)の考察をもとに、分析してみました。なお、3人のうちだれ一人として当事者から聞いたわけではないので、あくまでも僕たちの推測によるものだとご理解ください。より正確な情報をお持ちの方がおられたら、教えてください。

先生:聴いてみる限り、55秒あたりの「チャラチャラチャー♪」の少し硬い音がワイングラスのサンプリングなのかと?

博士:ご指摘どおり55秒あたりからの著名な主旋律の部分のスコーンと抜けるクリスタルな感じの音がサンプリングだと僕も思います。当時のシンセ事情を考えうるとDX-7、Fairlight CMI、E-muが考えられます。

先生:ライナーの発言からもE-muでしょうね。

博士:教授のサウンドが、『音楽図鑑』あたりから急に生っぽくなるのも上記のデジタルシンセの使用が原因です。本来、この主旋律の様に不規則倍音を含む(要するにガラスを叩くような抜ける音)を作るのはDX-7が得意なはずでが、発売時期(1983年5月)が「戦メリ」の公開(1983年5月28日)とほぼ同じですから、どちらしてもDX-7は使えそうにありません。またこの音色は確かに音程的にはやや甘い感じがします。その点からも完璧チューニングが売りのDX-7では出ない音だと思います。

なおみ:E-muはWinter Tourで使われています。E-mu1は1982年発売、そしてE-mu2は1984年の発売です。となると、「戦メリ」はこのE-mu1が使われたことになります。このE-mu1はサンプリングがひとつの音程しかできません。YMO関係者はシンクラヴィアを使ってないので、散開までE-muシリーズしか使ってないはずです。

先生:ワイングラスの音って探してみて、そうかなと思いますが、微妙ですよね。

なおみ:ワイングラスを叩く音を想像してこの「戦メリ」のメロディを聴くとかなり低いですよね? オリジナルの音よりかなり低い音を弾いてることになります。

先生:何で叩いたかは分かりませんが、確かに。

なおみ:一箇所(例えば”ラ”)でサンプリングされた音は、低くすると歪(ゆがみ)がでます。つまり低いところに行くと音は歪んだ(ゆがんだ)ものになります。これは当時困りモノだったのですけど。

先生:どこかチューニングがずれたような音ですよね。

なおみ:しかしそんな事をすると音痴になっちゃう。ピアノと一緒に鳴らしているので、低いところは違和感があるのだと思います。

博士:ワイングラスを叩いた音をイーミュレーターに入力すると、他のすべての音程を鍵盤上でしかも和音で演奏できるようになるという仕組みであることをまず理解してください。当時のサンプラーはサンプリングポイントが極端に少なく、少ないサンプリングポイントからすべての音階を無理やり作ると、サンプリングポイントから離れるほどピッチも甘くなります。戦メリの主旋律も何かそんな感じのピッチの甘さを感じます。

先生:逆に言えば、ワイングラスのサンプリングだけなら、あまりにもメロディとして不安定になってしまうという事ですね。

なおみ:だから、メインのメロディは、「ワイングラスとピアノ」の同時鳴らしの音だと思います。

博士:調律がしっかりしているピアノとユニゾンすることで倍音同士が微妙に、しかもランダムに不協和音を発生させ、より耳障りで強烈な音になるのです。トイピアノ(玩具のピアノ)を思い出してください。 非常に耳障りなキツイ音ですよね。また弾く鍵盤によって澄んだ音だったり、非常に耳障りな音だったりとランダムな「ムラ」を感じると思います。あれは倍音同士がランダムに干渉して高周波で干渉波(うねり)を出しているのです。その感じを調律して完璧な生ピアノと、音程がやや甘いサンプリングしたワイングラス音を使用する事で結果的に出しているのです。

先生:逆に当時の機器だったからあの独特に質感が出せたと・・・。教授のセルフカヴァーは基本ピアノversionですが、僕もやっぱりオリジナルが一番好きです。

博士:まさにそうなんです。もっとサンプリングレートの高い今のサンプラーだと、ワイングラスを叩いた音はワイングラスを叩いたままの綺麗な音がします。 当時のサンプラーはサンプリングレートが低く、明らかに音色が変化してしまい、サンプリングポイントが少なく無理に音程を作ると音程が怪しくなります。それを音程がしっかりした別の楽器とオクターブ音程であわせる事で、音痴な感じにならずに、音程に干渉によってランダムに有機的な音色変化が発生したと考えます。すなわち、当時の機材の不完全さとそれを駆使しようとする知恵から生まれたサウンドなのです。

先生:55秒までの部分は普通のシンセ音に聴こえますね。

なおみ:こっちは多分シンセです。音の立ち上がりが「うにぃょ」ってなっているのでこれはシンセだと思います。当時のサンプリングの技術でこれは多分できないです。
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Hiroaki Shikata


四方宏明
テクノポップを中心としたレコード蒐集癖からPOP ACADEMYを1997年になんとなく設立。2001年よりAll Aboutにてテクノポップのガイドを担当してます。Twitterで更新のお知らせ中。

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