川崎レジデンツさんが主催する2月8日のStrange Lounge〈エレポップ特集〉で2曲目にかけたのが、JULLANの12インチ・シングル『Rouge Train Express』(1985年)に収録された「Rouge Train Express」。僕の選曲はイギリス勢中心でしたが、和製エレポップの代表としてJULLANをかけました。Kraftwerkの「Autobahn」ネタをぶっ込んでいる9分を超える超大作です。幸い、小暮秀夫さんが「これは気分が上がった!」「自分もイベントでしつこくJULLANをかけてきた」「JULLANはエレポップだよね〜」と言ってくれて、JULLANのおかげで意気投合しました。
JULLAN - Rouge Train Express (1985年)
そんなJULLANですが、Wikipediaにもちゃんとしたページはなく、ネット上にも限られた情報しか存在せず、この場でできる限り、JULLANの謎を解き明かしたいと思います(人物名については敬称略)。
JULLANとはいったい誰なのか?
アルバムや雑誌でも全て大文字になっており、Jullanではなく、JULLANと表記します。僕の世代だと、「ウルトラQ」に出てきた吸血巨大植物ジュラン(ジュラン属という植物の属名があります)を思い浮かべますが、こちらの英語のスペルは「Juran」なので、ちょっと違いますね。雑誌の取材記事から察するに、聴きやすく、覚えやすいグループを選んだだけで、深い意味はないそうです。
メンバーは当時はまだ大学生だったHiroshi(1960年生まれ)とAtsushi(1962年生まれ)。二人は一橋大学軽音楽部で出会い、JULLANを結成。POP ACADEMYをやっていた頃に、メンバーの一人と同級生だったという人からメールをもらい、「一橋大学に進学して、在学中にユニットを組んで、コーセーのCMでJULLANの曲が流れたので同級生の間でも話題になった」との情報をいただきました。取材でもAtsushiは「ミュージシャンやりながらも僕達は大学だけは出ておきたい」と答えています。
彼らについてはデモテープに纏わる逸話があります。一つは、メロディーメーカー誌にデモテープを送ったところ、いい反応を得たということ。彼らの1stアルバムの『Imaginary Doll』(1984年)の帯にも「英国の音楽誌“メロディーメーカー”も絶賛」と書かれています。また、彼らが英国を訪れたとき会ったBoy Georgeが「JULLANこそが日本から世界に飛び立つグループだ」と賛辞を送ったという話もあります。
もう一つは、1983年11月8日の坂本龍一の「サウンドストリート」内のデモテープ特集で、「Electric Day」のデモ版が紹介され、「Rolandの機材を完璧に使いこなしているって感じで、それなりにアレンジもできていますしね。コーラスでサビで厚みをつけるとことか…多重録音もSN比がなかなか良くて。機材を与えれば、LPなんか作れちゃうわけで。レコード会社がトレードしたらいいじゃないですか」と、高評価を得ました。また、この時点ではバンド形態するためメンバー募集をしていました。
JULLAN - Electric Day〈サウンドストリートDemo Version〉 (1983年)
メロディーメーカー誌へのデモテープの反響が実際にどの程度であったかは推測の域を超えませんが、JULLANはBlush Recordsという英国のインディー・レーベルのニューウェイヴ系コンピレーション『Blush On Black』に収録され、海外での爪痕を残しています。ほとんどはマイナーなアーティストですが、高橋幸宏とも親交があったニュージーランド出身のZaine Griffやオーストラリア出身のDuffoも参加しています。Soundcloudに日本で発表されたアレンジとは違う「Imaginary Doll」の音源があります。
Imaginary Doll (Soundcloud)
二人の多重録音から始まったユニットということから、スタジオ中心の活動でしたが、1984年9月から全国5ヶ所初ライブを行っています。一風堂で活動してきた見岳章(Key.)、藤井章司(Dr.)に加えて小池ヒロミチ(Bass)となかなか豪華なミュージシャンのサポートでした。ちなみに初めの二人は2ndアルバム『Electromance』からサポートをしています。このライブを観た人はいるのかなと思ったら、YouTubeにライブ音源が上がっていました。1984年9月26日に九段会館で行われたライブと推測されます。
JULLAN - Imaginary Doll〈Live〉 (1984年)
JULLANはエレポップなのか?
取材記事における彼らの発言からも、彼らがエレクトロポップ指向であったことが窺えます。「“テクノ”というよりも“エレクトロサウンド”の方ではないかな(Hiroshi)」「テクノっていうと音楽的には機械的な音を中心にもってきたという感じがしますよね。…それよりも、メロディ中心の曲を今風の音で包み込んだという感じですね(Atsushi)」とテクノポップとは一定の距離をとっています。また、多くの楽曲は英語で歌われており、「日本的とか、東洋的なということではなくて海外のバンドと同次元での評価が得られたことで、やっていけるという自信ができたというか。まあ、Depeche Modeなんかにも負けていないじゃなだろうかみたいな(笑)(Hiroshi)」といった海外、特に英国指向と取れる発言もあります。こちらは2ndアルバム『Electromance』のB1の収録の「To Be Or Not To Be」ですが、明らかにFrankie Goes To Holllywoodの「Relax」を意識したサウンドとなっています。
JULLAN - To Be Or Not To Be (1984年)
JULLANの幻のシングル
しかしながら、3rdシングル『Rouge Train』(1985年)のリリース時には、Atsushiは学業に専念するために脱退し、代わりにTadashiが加わります。クレジットがないのですが、7インチシングルのジャケに写っているのは、Tadashi(左)とHiroshi(右)だと思われます。これは2ndシングル『Because Of Love』に続く、コーセー化粧品のCMタイアップ曲で、春のキャンペーンなので発売は1985年の春と考えられ、その後、3rdアルバム『Pulse』(1985年)が最後の作品となりました。サンプラーを多用し、哀愁のエレクトロポップ路線からThe Art Of Noiseの影響も窺えるリズム重視の意欲作となっています。和製Art Of Noiseと呼ぶ人もいる3dl (San-Decilitre)が登場するのが1987年ですから、JULLANは2年早かったのです。きっと「Pulse(衝撃波)」という名前にもこのサウンドの進化に対する意味が込められているのでしょう。
冒頭で書いた12インチの『Rouge Train Express』のB面、アルバム『Pulse』にも収録されている「Love Somebody」という曲がありますが、当時のリリース情報としてシングル『Love Somebody』のリリースの告知もあったようです。しかし、実物を持っている人、見たことがある人はおらず、実際にリリースされたかは怪しいです。また、すでに12インチとアルバムに収録されていることからも、その価値も微妙です。
解散後のJULLAN
宗次郎によるNHK特集「大黄河」のサントラ・アルバム『大黄河』(1986年)の共同作編曲にHiroshiと思われる人がクレジットされています。リリース元はJULLANと同じSound Design Recordsなのでほぼ間違いないでしょう。しかしながら、それ以上の情報は見つかりませんでした。ちなみにSound Design Recordsからは、他にも元Filmsの岩崎工(Takumi名義)や喜多郎がリリースされていました。
Hiroshiのその後については情報がありませんが、Atsushiは、国際政治学者の道を歩み、現在は某大学の大学副学長として活躍されています。音楽とアカデミアでの両方の才能を持たれていたんですね。
謎の『The Very Best of JULLAN』
鳴り物入りでデビューし、CMタイアップ曲も発表したJULLANですが、シングルはオリコンで100位以内に入らない結果となってしまいました。チャートインできなかったものの、JULLANの果敢なチャレンジには敬意を払いたいと思います。JULLANのディスコグラフィは以下となります。
Albums:
Imaginary Doll (1984年)
Electromance (1984年)
Pulse (1985年)
Singles:
Imaginary Doll (1984年)
Because Of Love (1984年) オリコン143位、コーセー秋のキャンペーン・BE・イメージソング
Because Of Love (Long & English Version-Because Mix!) (1984年) 12”シングル、50000枚限定
Rouge Train (1985年) オリコン147位、コーセー化粧品春のキャンペーン・BE紅・イメージソング
Rouge Train Express (Long & English Version Of Rouge Train) (1985年) 12"シングル
Love Somebody (1985年) 告知後、未発売になったと推測
Jullanの再発は今までされたことがないと思っていました。しかしながら、Discogsでチェックしてみると、2018年と2022年に『The Very Best of JULLAN』というCDが香港のAvex Asiaから何とリリースされているではないですか!?所有している人はいるようですが、「このリリースはDiscogsでの販売がブロックされています。マーケットプレイスでの販売は禁止されています」という注意書きがあります。なぜ香港でリリースがされて、Discogsで販売が禁止されているのか、謎です。Avex Asiaという会社は確かに存在しますが、実際の発売元かも怪しく、ブートレグの疑惑もあります。配信音源もない中、CD化自体はいいのですが、「The Very Best」という割には3rdアルバム『Pulse』の曲と「Because Of Love」「Rouge Train」といったシングル収録曲は含まれておらず、やっつけ仕事的な選曲をしており、「僕に選曲させてよ」と言いたくなる内容ではあります。中途半端なCDはいいから、配信して欲しいです。もし中古レコード屋でJULLANを見つけたら、この記事を思い出して、手に取って下さい。
JULLAN - The Very Best of JULLAN (Discogs)
JULLAN - Rouge Train Express (1985年)
そんなJULLANですが、Wikipediaにもちゃんとしたページはなく、ネット上にも限られた情報しか存在せず、この場でできる限り、JULLANの謎を解き明かしたいと思います(人物名については敬称略)。
JULLANとはいったい誰なのか?
アルバムや雑誌でも全て大文字になっており、Jullanではなく、JULLANと表記します。僕の世代だと、「ウルトラQ」に出てきた吸血巨大植物ジュラン(ジュラン属という植物の属名があります)を思い浮かべますが、こちらの英語のスペルは「Juran」なので、ちょっと違いますね。雑誌の取材記事から察するに、聴きやすく、覚えやすいグループを選んだだけで、深い意味はないそうです。
メンバーは当時はまだ大学生だったHiroshi(1960年生まれ)とAtsushi(1962年生まれ)。二人は一橋大学軽音楽部で出会い、JULLANを結成。POP ACADEMYをやっていた頃に、メンバーの一人と同級生だったという人からメールをもらい、「一橋大学に進学して、在学中にユニットを組んで、コーセーのCMでJULLANの曲が流れたので同級生の間でも話題になった」との情報をいただきました。取材でもAtsushiは「ミュージシャンやりながらも僕達は大学だけは出ておきたい」と答えています。
彼らについてはデモテープに纏わる逸話があります。一つは、メロディーメーカー誌にデモテープを送ったところ、いい反応を得たということ。彼らの1stアルバムの『Imaginary Doll』(1984年)の帯にも「英国の音楽誌“メロディーメーカー”も絶賛」と書かれています。また、彼らが英国を訪れたとき会ったBoy Georgeが「JULLANこそが日本から世界に飛び立つグループだ」と賛辞を送ったという話もあります。
もう一つは、1983年11月8日の坂本龍一の「サウンドストリート」内のデモテープ特集で、「Electric Day」のデモ版が紹介され、「Rolandの機材を完璧に使いこなしているって感じで、それなりにアレンジもできていますしね。コーラスでサビで厚みをつけるとことか…多重録音もSN比がなかなか良くて。機材を与えれば、LPなんか作れちゃうわけで。レコード会社がトレードしたらいいじゃないですか」と、高評価を得ました。また、この時点ではバンド形態するためメンバー募集をしていました。
JULLAN - Electric Day〈サウンドストリートDemo Version〉 (1983年)
メロディーメーカー誌へのデモテープの反響が実際にどの程度であったかは推測の域を超えませんが、JULLANはBlush Recordsという英国のインディー・レーベルのニューウェイヴ系コンピレーション『Blush On Black』に収録され、海外での爪痕を残しています。ほとんどはマイナーなアーティストですが、高橋幸宏とも親交があったニュージーランド出身のZaine Griffやオーストラリア出身のDuffoも参加しています。Soundcloudに日本で発表されたアレンジとは違う「Imaginary Doll」の音源があります。
Imaginary Doll (Soundcloud)
二人の多重録音から始まったユニットということから、スタジオ中心の活動でしたが、1984年9月から全国5ヶ所初ライブを行っています。一風堂で活動してきた見岳章(Key.)、藤井章司(Dr.)に加えて小池ヒロミチ(Bass)となかなか豪華なミュージシャンのサポートでした。ちなみに初めの二人は2ndアルバム『Electromance』からサポートをしています。このライブを観た人はいるのかなと思ったら、YouTubeにライブ音源が上がっていました。1984年9月26日に九段会館で行われたライブと推測されます。
JULLAN - Imaginary Doll〈Live〉 (1984年)
JULLANはエレポップなのか?
取材記事における彼らの発言からも、彼らがエレクトロポップ指向であったことが窺えます。「“テクノ”というよりも“エレクトロサウンド”の方ではないかな(Hiroshi)」「テクノっていうと音楽的には機械的な音を中心にもってきたという感じがしますよね。…それよりも、メロディ中心の曲を今風の音で包み込んだという感じですね(Atsushi)」とテクノポップとは一定の距離をとっています。また、多くの楽曲は英語で歌われており、「日本的とか、東洋的なということではなくて海外のバンドと同次元での評価が得られたことで、やっていけるという自信ができたというか。まあ、Depeche Modeなんかにも負けていないじゃなだろうかみたいな(笑)(Hiroshi)」といった海外、特に英国指向と取れる発言もあります。こちらは2ndアルバム『Electromance』のB1の収録の「To Be Or Not To Be」ですが、明らかにFrankie Goes To Holllywoodの「Relax」を意識したサウンドとなっています。
JULLAN - To Be Or Not To Be (1984年)
JULLANの幻のシングル
しかしながら、3rdシングル『Rouge Train』(1985年)のリリース時には、Atsushiは学業に専念するために脱退し、代わりにTadashiが加わります。クレジットがないのですが、7インチシングルのジャケに写っているのは、Tadashi(左)とHiroshi(右)だと思われます。これは2ndシングル『Because Of Love』に続く、コーセー化粧品のCMタイアップ曲で、春のキャンペーンなので発売は1985年の春と考えられ、その後、3rdアルバム『Pulse』(1985年)が最後の作品となりました。サンプラーを多用し、哀愁のエレクトロポップ路線からThe Art Of Noiseの影響も窺えるリズム重視の意欲作となっています。和製Art Of Noiseと呼ぶ人もいる3dl (San-Decilitre)が登場するのが1987年ですから、JULLANは2年早かったのです。きっと「Pulse(衝撃波)」という名前にもこのサウンドの進化に対する意味が込められているのでしょう。
冒頭で書いた12インチの『Rouge Train Express』のB面、アルバム『Pulse』にも収録されている「Love Somebody」という曲がありますが、当時のリリース情報としてシングル『Love Somebody』のリリースの告知もあったようです。しかし、実物を持っている人、見たことがある人はおらず、実際にリリースされたかは怪しいです。また、すでに12インチとアルバムに収録されていることからも、その価値も微妙です。
解散後のJULLAN
宗次郎によるNHK特集「大黄河」のサントラ・アルバム『大黄河』(1986年)の共同作編曲にHiroshiと思われる人がクレジットされています。リリース元はJULLANと同じSound Design Recordsなのでほぼ間違いないでしょう。しかしながら、それ以上の情報は見つかりませんでした。ちなみにSound Design Recordsからは、他にも元Filmsの岩崎工(Takumi名義)や喜多郎がリリースされていました。
Hiroshiのその後については情報がありませんが、Atsushiは、国際政治学者の道を歩み、現在は某大学の大学副学長として活躍されています。音楽とアカデミアでの両方の才能を持たれていたんですね。
謎の『The Very Best of JULLAN』
鳴り物入りでデビューし、CMタイアップ曲も発表したJULLANですが、シングルはオリコンで100位以内に入らない結果となってしまいました。チャートインできなかったものの、JULLANの果敢なチャレンジには敬意を払いたいと思います。JULLANのディスコグラフィは以下となります。
Albums:
Imaginary Doll (1984年)
Electromance (1984年)
Pulse (1985年)
Singles:
Imaginary Doll (1984年)
Because Of Love (1984年) オリコン143位、コーセー秋のキャンペーン・BE・イメージソング
Because Of Love (Long & English Version-Because Mix!) (1984年) 12”シングル、50000枚限定
Rouge Train (1985年) オリコン147位、コーセー化粧品春のキャンペーン・BE紅・イメージソング
Rouge Train Express (Long & English Version Of Rouge Train) (1985年) 12"シングル
Love Somebody (1985年) 告知後、未発売になったと推測
Jullanの再発は今までされたことがないと思っていました。しかしながら、Discogsでチェックしてみると、2018年と2022年に『The Very Best of JULLAN』というCDが香港のAvex Asiaから何とリリースされているではないですか!?所有している人はいるようですが、「このリリースはDiscogsでの販売がブロックされています。マーケットプレイスでの販売は禁止されています」という注意書きがあります。なぜ香港でリリースがされて、Discogsで販売が禁止されているのか、謎です。Avex Asiaという会社は確かに存在しますが、実際の発売元かも怪しく、ブートレグの疑惑もあります。配信音源もない中、CD化自体はいいのですが、「The Very Best」という割には3rdアルバム『Pulse』の曲と「Because Of Love」「Rouge Train」といったシングル収録曲は含まれておらず、やっつけ仕事的な選曲をしており、「僕に選曲させてよ」と言いたくなる内容ではあります。中途半端なCDはいいから、配信して欲しいです。もし中古レコード屋でJULLANを見つけたら、この記事を思い出して、手に取って下さい。
JULLAN - The Very Best of JULLAN (Discogs)